モームリ社長逮捕でも「退職代行」はなくならない【消えぬブラック企業】

雑記

先日、退職代行サービス大手の「モームリ」の社長らが
弁護士法違反の疑いで逮捕されるというニュースが駆け巡りました。

SNSやニュースのコメント欄では、「やっぱり怪しい業界だったのか」「これだから退職代行は……」といった声も少なからず見受けられます。

累計4万件もの実績を誇り、メディアでも頻繁に取り上げられていた企業のトップが逮捕された衝撃は、決して小さくありません。

しかし、この事件を受けて「退職代行サービスそのものが消滅する」と考えるのは早計です。

むしろ、今回の件は「退職代行というサービスが、日本の労働社会において「不可欠なインフラ」になりつつあることの裏返し」であるとも言えるからです。

今回は、今回の事件の要点を整理しつつ、賛否両論渦巻くこのサービスがなぜこれほどまでに求められ
そして今後どこへ向かうのかを深掘りして解説します。

1. そもそも、なぜ逮捕されたのか?

「退職の手伝い」自体が罪ではない

まず誤解してはならないのは、今回の逮捕容疑は
「退職代行を行ったことそのもの」に対するものではないという点です。

容疑は「弁護士法違反(非弁提携)」です。

簡単に言えば、弁護士資格を持たない業者が、報酬目的で顧客を弁護士に紹介(周旋)したという点が問題視されました。

本来、会社との交渉(未払い残業代の請求や、有給消化の拒否に対する反論など)は、弁護士か労働組合にしか認められていません

民間業者ができるのは、あくまで「本人の意思を伝えること」だけです。


しかし、トラブルが複雑化した際、民間業者が「提携している弁護士を紹介しますよ」と言って裏で紹介料を受け取ると、これは法律違反になります

今回の事件は、この「業としての線引き」を超えてしまったことが捜査のメスが入った最大の理由と見られています。

つまり、退職代行というビジネスモデルそのものの違法性」が問われたわけではなく、「運営方法のコンプライアンス違反」が問われたのです。

2. それでも「代行」にすがる人たちの悲鳴

「できれば普通に辞めたかった」

今回の事件を受け、企業側からは「ざまあみろ」という声が聞こえてくるかもしれません。

しかし、実際にこのサービスを利用した人々の声に耳を傾けると、景色は全く違って見えます。

ある利用者の女性は、涙ながらにこう語りました。

できれば退職代行など使わず、しっかり自分の口で伝えて辞めたかった

彼女は入社してたった9ヶ月で退職代行を利用しました。

理由は、上司からの執拗なハラスメントです。

体型を揶揄され、人格を否定され、怒鳴られ続ける毎日。

「辞めたい」と言い出せば、さらに何をされるかわからない恐怖。

彼女のように、「自分の口で退職を伝える」という当たり前の行為さえ封じ込められ
精神的に追い詰められた人にとって、退職代行は「唯一の緊急脱出装置」なのです。

「甘え」ではなく「自己防衛」

世間には「退職くらい自分で言え」「最近の若者は根性がない」という批判があります。

しかし、今の労働環境は、一般の常識が通用しない「ブラックホール」のような職場が点在しています。

  • 退職届を受け取ってくれない
  • 「損害賠償を請求するぞ」と脅される
  • 執拗な引き止めや恫喝にあう

こうした状況下では、退職代行を使うことは「甘え」ではなく
自分の心身を守るための「正当な自己防衛」と言えるのではないでしょうか。

3. 企業側の言い分:「大迷惑」の正体

一方で、使われた側の企業、特に人事担当者の怒りも理解できなくはありません。

ある金融機関の人事担当者は、「大迷惑。とにかく大迷惑の一言です」と吐き捨てました。

ある日突然、見知らぬ業者から電話があり、「〇〇さんは今日から来ません。連絡もしないでください」と言われる。引継ぎもなし、貸与品の返却も郵送のみ。

現場は混乱し、残された社員に業務のしわ寄せがいきます。

さらに、「今後は採用時に、過去に退職代行を使ったか調査する」と息巻く企業さえあると言います。

しかし、ここで冷静に考える必要があります。

なぜ、その社員は「大迷惑」をかけてまで、逃げるように辞めなければならなかったのでしょうか?

本当に風通しの良い、心理的安全性が確保された職場であれば、社員は相談もなしに業者を使って消えたりしません。

「大迷惑だ」と怒る前に、「そこまで追い込んだ原因は自社になかったか」を自問できる企業と、そうでない企業の差は、今後ますます開いていくでしょう。

4. 退職代行は「現代の駆け込み寺」か

債務整理と似た構造

今回の出来事で非常に興味深い視点を持つ方がいました。
その方の視点は、退職代行は「債務整理業者」に似ているというものでした。

借金に追われ、闇金からの取り立てに震える人にとって、債務整理をしてくれる司法書士や弁護士は「神様」に見えます。
一方で、貸した側からすれば「借金を踏み倒す手助けをする悪徳業者」に見えるかもしれません。

退職代行も同じです。

「労働契約」という鎖に縛られ、自力ではどうにもならなくなった人を、強引にでも断ち切って救出する。
そこには、「劇薬」としての側面があります。

劇薬である以上、今回のようにコンプライアンスを無視して利益に走る「悪徳業者」も出てきます。

しかし、劇薬が必要とされるほどの「重病(深刻な労働問題)」が社会に蔓延しているという事実からは、目を背けることができません。

業界の自浄作用が進む未来

今回の「モームリ」社長逮捕は、業界にとって大きな転換点になるでしょう。

これを機に、違法すれすれの運営をしていた業者は淘汰され
弁護士や認定司法書士、労働組合が運営する「適法でクリーンなサービス」へと集約されていくはずです。

しかし、どんなに業者が逮捕されようと、どんなに規制が強化されようと
「退職代行」というサービス自体はなくなりません。


なぜなら、「人を使い捨てにする企業」がなくならない限り
そこから逃げ出したいと願う需要はなくならないからです。

5. まとめ:私たちが直視すべきこと

今回の事件は、単なる「一企業の不祥事」ではありません。
日本の労働市場が抱える歪みが、形となって現れたものです。

  • 利用者側
    • 業者選びは慎重に。
      「安さ」や「手軽さ」だけでなく
      弁護士監修や法的な安全性を確認するリテラシーが求められます。
  • 企業側
    • 「代行を使われた」と嘆くのではなく
      「使われるような職場環境ではなかったか」を見直すラストチャンスと捉えるべきです。

退職代行サービスが「不要な社会」になること。

誰もが自分の言葉で「辞めます」「今までありがとうございました」と言って
花束を受け取って去れる社会になること。

それが理想ですが、残念ながらその道のりはまだ遠そうです。

だからこそ、このサービスは形を変え、法に適合しながら
今後も「弱き労働者の最後の砦」として生き残り続けるでしょう。

今回の逮捕劇は、退職代行というサービスの「終わり」ではなく
健全化に向けた「始まり」なのかもしれません。

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