「ナフサが不足していて、このままだと倒産する会社が相次ぐかもしれない」
というニュースを耳にしたことはありませんか?
しかし一方で、国は「全体の量は足りている」と説明しています。
「総量は足りているのに、なぜ現場では不足しているのか?」不思議に思いますよね。
この記事では、私たちの生活に深く関わっている「ナフサ」の基本から
なぜ今このような食い違いが起きているのか
そしてどのような業種が危機に瀕しているのかを分かりやすく解説します。
この記事を読むと、ナフサ不足の本当の理由と
今後の生活への影響がすっきりと分かります。
ナフサとは
そもそも「ナフサ」とは何でしょうか。
普段の生活ではあまり聞き慣れない言葉ですが
実は私たちの身の回りにあるほとんどの製品に関わっている
とても重要な素材です。
一言でいうと、ナフサとは「原油を精製する過程で生まれる粗製のガソリン」のことです。
私たちが車に入れるガソリンの仲間ですが
燃料としてではなく
主に「プラスチックや化学製品の生みの親(原料)」として使われます。

ナフサがどのように作られ
何に化けるのか、その流れを簡単な表で見てみましょう。
原油から生まれる製品とその使われ方
地球から掘り出された原油は、大きな工場で熱をかけられます。
すると、成分ごとに蒸発する温度(沸点)が違うため
以下のようにさまざまな製品に分かれて出てきます。
| 沸点の違い | 生まれる製品 | 主な使い道 |
| 低い(蒸発しやすい) | LPガス(プロパンガス) | 家庭用の燃料など |
| ↓ | ガソリン・ナフサ | 車の燃料、化学製品の原料(★ココ!) |
| ↓ | 灯油・ジェット燃料 | ストーブの燃料、飛行機の燃料 |
| ↓ | 軽油 | トラックやバスの燃料 |
| 高い(ドロドロしている) | 重油・アスファルト | 船の燃料、道路の舗装 |
このように、原油を温めて最初の方に出てくる「ガソリンの兄弟」のような液体がナフサです。
このナフサを、さらに専用の巨大な装置で高い温度で分解すると
プラスチック、消しゴムなどのゴム製品、衣服の繊維、合成洗剤、塗料(ペンキ)、印刷用のインクなど
数え切れないほどの材料に姿を変えます。
日本のすべての製造業のうち
およそ3割の製品にこのナフサが関わっていると言われるほど
日本のものづくりを根底から支えている存在なのです。
ナフサ不足とは
では、そのナフサが「不足している」とはどういうことなのでしょうか。
きっかけは、中東地域での急激な情勢の変化です。
日本は、材料となる原油やナフサの多くを中東からの輸入に頼っています。
しかし、現地の海域(ホルムズ海峡など)で対立や攻撃が起き
荷物を運ぶ大型の輸送船が安全に通れなくなってしまいました。
これにより、日本へ入ってくるナフサの通り道がふさがれてしまったのです。
身近なところでは、大手お菓子会社が
「ナフサが足りないため、ポテトチップスなどの袋の印刷を
カラフルなものから白黒に変更する」と発表し
世間を驚かせました。
印刷に使うインクもまた、ナフサから作られているためです。
ここで奇妙なすれ違いが起きます。
現場の会社が「材料がなくて困っている」と声を上げているのに対し
国は「ナフサの全体量は確保できている。備蓄もあるので大丈夫だ」と
繰り返し発表しているのです。
「国は足りていると言うのに、現場の会社には届かない」
この謎の答えは、製品が作られてから私たちの手元に届くまでの
「長くて複雑な道のり」にあります。
ナフサ不足で倒産する業種は?
具体的な謎解きの前に、まずは今
どのような業界が倒産の危機に瀕しているのかを見ていきましょう。
最も深刻な打撃を受けているのが
家や建物のペンキ塗りを行う「塗装業界」です。

建物を雨やサビから守る塗料や、それを薄めて使いやすくする「シンナー」
窓枠のすき間を埋める「穴埋め材(コーキング材)」などは、
すべてナフサから作られています。
これらが入ってこなければ
職人さんたちは仕事を完全に止めざるを得ません。
実際に行われた業界の調査では、
シンナーが「いつも通りに手に入る」と答えた会社は、
全体のわずか2.7%しかいませんでした。
ほぼすべての会社が
仕事に必要な道具を手に入れられずに困窮しています。
現場では、以下のような致命的な問題が次々と起きています。
- 1%の材料不足で、製品が作れない
- 塗料はさまざまな成分を混ぜ合わせて作られます。
たとえ99%の材料がそろっていても
泡を消すための特殊な薬(添加剤)が1%足りないだけで
製品として完成しません。
そのまま塗ると泡だらけになってしまうからです。
- 塗料はさまざまな成分を混ぜ合わせて作られます。
- 材料を混ぜる釜が大きすぎる
- 塗料を作る工場では、
1トンといった大量の材料を一度に混ぜる大きな釜を使っています。
材料が少しずつしか手に入らない場合
その大きな釜を動かすことができず
材料が一定量たまるまで何週間も製造がストップしてしまいます。
- 塗料を作る工場では、
- 価格が急騰しても、お客さんに請求できない
- 手に入りにくくなった結果
シンナーの価格が75%も値上がりするなど
材料費がはね上がっています。
しかし、すでに「この金額で工事をします」と契約を結んでいる場合
途中で「材料費が上がったので、追加でお金をください」とは簡単には言えません。
結局、値上がり分を自分たちの会社で負担することになり
大赤字になってしまいます。
- 手に入りにくくなった結果
こうした苦境により、現場では仕事を続けられなくなり
若い職人を解雇せざるを得ない状況に追い込まれる会社も出てきています。

専門の調査機関によると
今年に入ってからの関連する倒産件数は過去最多に達する勢いであり
まさに会社がバタバタと倒れかねない瀬戸際に立たされているのです。
参考:帝国データバンク
量は足りているのになぜ不足?
それでは、いよいよ本題です。
「全体の量は足りているのに、なぜ現場では不足して、倒産の危機にまでなるのか?」
これには2つの大きな原因があります。
1つは「製品が届くまでの段階ごとの思惑の違い(目詰まり)」
もう1つは「ナフサから作られる成分の割合の決まり」です。
原因①:供給の道のりで起きる「目詰まり」
ナフサが最終的な製品になって現場に届くまでには、
以下の図のように「川上」「川中」「川下」という長い段階を踏みます。
それぞれの段階にいる会社が、自分たちの会社を守るために合理的な判断をした結果
全体の流れが止まる「目詰まり」が起きてしまいます。
【石油化学・プラスチック・塗料業界】の例
| 段階 | 役割 | 具体的な企業・業種の例 | 今回の危機での動き |
|---|---|---|---|
| 川上 | 原料を仕入れて 大元の素材を作る | ENEOS(エネオス)、出光興産 コスモ石油、三菱ケミカル、三井化学 住友化学など | 中東からの輸入が減ったため 別の国から高く仕入れる。 素材を高い値段で売る。 |
| 川中 | 容器やフィルム シンナーなどに加工する | 日本ペイント、関西ペイント DIC(旧:大日本インキ化学工業) 旭化成など | 原料が高すぎるため そのまま作ると大赤字になる。 赤字を避けるために「作る量を減らす(減産) |
| 川下 | 最終製品を使う | 食品・日用品メーカー カルビー(袋にインクを使用) 花王(洗剤のボトルに使用)など 自動車メーカー トヨタ、日産など (バンパーなどのプラスチック部品を使用) 建設・住宅メーカー・現場 積水ハウス、大和ハウス 街のペンキ屋さん(塗装業者) | 「これから先、もっと値上がりするかも」 「手に入らなくなるかも」と不安になり 買えるうちにたくさん買いだめしようとする。 |
このように、川中の会社が作る量を減らしている一方で
川下の会社が不安からいつも以上の注文を出します。
すると、資金力や強い取引関係を持つ大企業にばかり物が集まり
街の小さなペンキ屋さんのような末端の中小企業には
まったく製品が届かなくなってしまうのです。
国は「川上」のデータを見て「全体の量は足りている」と言い
現場の「川下」は「手元に届かないから足りない」と言う。
これが認識のズレの正体なのです。
原因②:成分の割合は変えられない
もう1つの原因は、化学の決まりごとにあります。
ナフサを分解したとき、そこから生まれる複数の成分の「割合」は最初から決まっており
人間の都合で自由に変えることができません。
- プラスチックの原料(エチレンなど)
- 全体の約50%
- 日本は普段、これを海外に輸出するほどたくさん作っています。
そのため、今回の危機でも海外への輸出を止めて国内に回せば、量は十分に足ります。
- 日本は普段、これを海外に輸出するほどたくさん作っています。
- 全体の約50%
- シンナーや塗料の原料(トルエン、キシレンなど)
- 全体のわずか約7%
- もともと取れる量が非常に少ない成分です。
さらに、今回は車のガソリンに混ぜる分として消費されてしまったことも重なり
国内での流通量が極端に減ってしまいました。
- もともと取れる量が非常に少ない成分です。
- 全体のわずか約7%
国が「足りている」と言ったのは、
50%を占めるプラスチック原料のことであり
現場で悲鳴が上がっていたのは、
わずか7%しか取れないシンナーの原料だったのです。
幸いにも、この偏りに対しては国も動き出し
ガソリン用から川中の製造会社へ直接届けるルートを作るなどしたため
間もなく現場の隅々まで行き渡る見通しが立っています。

でも、川下までの道のりが複雑すぎるから
国が動いたからといって、すぐに問題が収まるとはちょと考え辛いな…

このままインクが使えなかったら
スーパーが白黒の世界になっちゃうのかしら??
まとめ
今回のナフサ不足問題は、私たちの社会を支える「素材の供給網」が抱える課題を浮き彫りにしました。
一つの場所でトラブルが起きると、国が「在庫はある」と言っていても
長い道のりの途中で会社ごとの思惑がぶつかり合い
最終的には最も立場の弱い中小企業や現場へと、じわじわとシワ寄せがいってしまいます。
そして、一度現場の職人さんたちが離れてしまえば
供給が元に戻っても、会社を元通りに再建することはできません。
今後の対策として、経済の専門家は次の2つの重要性を指摘しています。
- どこにどれだけの在庫があるかを、国と民間で見えるようにすること(透明化)
- 状況が分かれば、不安による過剰な買いだめや
過度な生産縮小を防ぐことができます。
- 状況が分かれば、不安による過剰な買いだめや
- 調達する国を中東だけに頼らず、小分けに分散すること
- 一つのルートが止まっても
別のルートから補える仕組みが不可欠です。
- 一つのルートが止まっても
私たちの生活にあるプラスチックや塗料、インクは、
あまりに身近すぎて普段はそのありがたみに気づきません。
だからこそ、見えないところで起きている危機の仕組みを正しく知り
平時のときから国全体で支え合える仕組みを作っていくことが
結果として私たちの暮らしを守ることに繋がるのです。



